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地米を使った酒造り その2
第12話

地米を使った酒造り その2

以前、「第6話 地米を使った酒造り」を書いてから、もう5年の月日が流れました。弊社のその部分に対する取り組みもさらに進んだ形になってきましたので、ご報告しておきたいと思います。

造りに100%長野県産酒造好適米を使うというところは以前と変ってはおりませんが、現在使用しているのは「金紋錦」「ひとごこち」「しらかば錦」の3種類のみとなりました。原料米が微妙に変ったのは、良い酒が出来た米に少しずつ変えていった結果です。
現在は使用している「ひとごこち」のほとんども地元飯山産の契約栽培米となり、なんと全使用原料米の70%以上が蔵の所在地から5km圏内で栽培されている酒造好適米となりました。

「加工用米」から「酒造好適米」へ

実は弊社では20年前は上位酒のわずかしか酒造好適米を使っていませんでした。当時は「加工用米」といって農家さんから安く出していただけるお米をたくさん使用しており、品種は完全には明らかでなかったですがその大半は「とどろきわせ」や「こしひかり」であったと聞いております。
酒造業を長く続けるということはかっこ良いことばかりではなく、時代や蔵の置かれた環境に応じた経済性も重要だと思っておりまして(良い米を使ってもやっていけなくなればそれまでですから)、簡単に一足飛びにはすべて値段の良い酒造好適米に替えるなどということは出来なかったのです。

もちろん使える米の範囲で最高のものを造ろうと常に努力はしてきましたが、徐々に良い米を使うようになりながら実感したのは、「良い米でなければ、もう1ランク上の香りと味を出す良い酒は出来ない」ということです。
そういう実感の中でお客様の評価もいただきながら徐々に良い酒が売れるようになり、それによって良い米も使えるようになってきました。
今そこそこに満足いく形で良い米が使えるのは、「水尾」を支えていただいているお客様や、お米を作ってくれる農家の皆さんのおかげであり、その昔から考えると夢のような環境だと感謝しております。

勇気を持って選んだ酒米

5年前の「地米へのこだわり」はまだ私の「勘」みたいなもので、「ここでなければ造れないものを造る」というポリシーでした。ポリシーは大切なものですし現在も変ってはおりませんが、それによって実際にクオリティーの高い味が生まれなければ酒は売れませんし、世に出した時に「なんだこんな程度か」で終わってしまうと思います。

特A規格の「コシヒカリ」を作るこの地でできる酒造好適米は、個性的でなおかつクオリティーの高い酒になるという当時の私の「勘」は、現在は「確信」に変りつつあります。
「山田錦」にはかなわないとか、「ひとごこち」は飯山では良いものはできないとか言われながらも勇気を出して(実はけっこうびくびくしながら)取り組んできたことは無駄ではなかったと嬉しく思っています。

蔵のまわりで作る酒造好適米は、農家の方との話し合いによりもっともっと良いものへと進化していくことができるでしょうし、その可能性は無限にあると思っています。
おごることなく実際に良い酒を造り続けていく事が、これからも弊社のポリシーを世に示し、「水尾」とこの地の価値を世に示す唯一の方法であると思っています。

(社長 田中隆太)