よみもの
第7話
できたての風味を生かす
料理でも風味を生かす料理をするのに手順が大事であるように、お酒の製造も手順が重要です。搾りたての生き生きとした風味を生かすにはタイミング良い作業が必要ですが、次のような問題があります。
- お酒は搾られた直後は全て生酒です。生酒の状態では風味は安定せず、冬場の低温でもどんどん酒質は変っていきます。風味を安定させるには、早めに熱処理をしてしまう事ですが、搾った酒を順次、タイミング良く熱処理するという作業は非常に手間がかかります。
- 熱処理した後のお酒は、今度は逆に早く冷やしてしまわなければなりません。料理でもゆでた材料をすぐに水にさらす事があるように、熱をかけっぱなしだと風味を壊してしまうのです。急速冷却するにはそれなりの設備が必要となり、コストがかかります。
- 冷却した後の酒は長い貯蔵期間に入ります。蔵の中で常温貯蔵した場合、通常の酒は半年ほどで老香(ひねか)と呼ばれる劣化臭がのってきます。
あえて老香を良しとして出荷する場合もありますが、通常の酒の場合はこの老香を除去するために、出荷前に活性炭濾過を行ないます。
しかし、活性炭濾過により、搾りたて後の豊かな風味も低下してしまいます。
さて、1.~3.の問題をクリアするために、当蔵は毎年少しずつ取り組んできました。
1.についてですが、仕込みの順序から搾った後の熱処理までの工程を計画的にスケジュールすることにしました。
以前は仕込みのスケジュールのみを立てていたのですが、そうするとどうしても熱処理のタイミングが後回しになってしまっていたからです。
2.については、何年かかけて冷却設備を整えてきました。設備投資もかかりましたが、それ以上に品質的な面では格段にアップしました。
3.については、かなり実験的ではありましたが、これも大きな投資をしました。タンクが丸ごと数本設置できる、大型冷蔵倉の導入、仕込蔵への低温空調の導入です。
これにより老香を発生を抑えることができ、したがって、活性炭濾過も不要となったのです。
特に3.の設備は飛躍的に酒質を向上させるものとなっています。
このように、できたての風味を生かすためには、様々な工程での注意が必要となります。しかし、ここに述べた事以前に、搾った直後の酒が良質に出来上がっていることが大前提であり、それにはさらに様々な工夫と管理と経験が必要です。
良い酒造りは一つひとつの良い仕事の幾重もの積み重ねで出来ているのです。
(専務 田中隆太)